要旨  新型コロナウイルスの大流行(パンデミック)に対する感染拡大防止措置は、食料サプライチェーンの安定を大きく脅かした。スペインとイタリアでは、パンデミック最初の数ヶ月で早くも農業労働力の不足が顕在化し、食料安全保障に移住農業労働者が不可欠なことが明らかになった。そこで本稿は、パンデミックが農業労働や移民に対する国民や政界の態度を変えることに貢献したのか、西伊両国での季節移住労働者や工業型農業をめぐる議論でいかなる認識が優勢だったかの 2 点を、批判的言説分析を中心に複数の分析手法を併用しながら検討する。具体的には、メディアにおける言説、関連する法律や行政の施策、2 次統計データ、さらには移住農業労働者や労働組合がブログ、ウェブサイト、Facebookアカウントから発信する自己表象と提言を分析した。その結果、パンデミックで移住農業労働者の果たす重要な役割や労働搾取の実態が明るみに出たにもかかわらず、可視性の向上が具体的な政策や認識の転換に移行しなかったことが明らかになった。労働と資本の分離という擬制に問題の核心がある以上、資本の論理にもとづく欧州先進国経済の主要な議論において、移住農業労働者は周縁化されたままなのである。

全てが変わり、何も変わらない―コロナ禍1年目におけるスペインとイタリアの移住農業労働ガバナンス―

MOLINERO-GERBEAU, Yoan;AVALLONE, Gennaro;
2024-01-01

Abstract

要旨  新型コロナウイルスの大流行(パンデミック)に対する感染拡大防止措置は、食料サプライチェーンの安定を大きく脅かした。スペインとイタリアでは、パンデミック最初の数ヶ月で早くも農業労働力の不足が顕在化し、食料安全保障に移住農業労働者が不可欠なことが明らかになった。そこで本稿は、パンデミックが農業労働や移民に対する国民や政界の態度を変えることに貢献したのか、西伊両国での季節移住労働者や工業型農業をめぐる議論でいかなる認識が優勢だったかの 2 点を、批判的言説分析を中心に複数の分析手法を併用しながら検討する。具体的には、メディアにおける言説、関連する法律や行政の施策、2 次統計データ、さらには移住農業労働者や労働組合がブログ、ウェブサイト、Facebookアカウントから発信する自己表象と提言を分析した。その結果、パンデミックで移住農業労働者の果たす重要な役割や労働搾取の実態が明るみに出たにもかかわらず、可視性の向上が具体的な政策や認識の転換に移行しなかったことが明らかになった。労働と資本の分離という擬制に問題の核心がある以上、資本の論理にもとづく欧州先進国経済の主要な議論において、移住農業労働者は周縁化されたままなのである。
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